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北近畿・山陰の旅7. 投入堂へ行く

 三朝温泉の近くに、三徳山三佛寺と言う役行者によって開かれたと伝わる山岳信仰の寺が有る。その奥の院は断崖絶壁の途中に建っているそうで、どうやってそんな所に建てられたか分からない事から、役行者が念力で地上に有った堂を投げ込んだと言う伝説が生まれ、付いた名前が『投入堂(なげいれどう)』である。これは見たい。

 しかし投入堂へ行く道は古来からの行者道のみで、その道のりは半端じゃ無くハードだとか。日本中の寺を巡った作家の五木寛之は「中でもナンバーワンと言える程ハード」と語り、多くの仏像を撮った写真家の土門拳は「投入堂は素晴らしいが二度と行きたくない」と語ったと言う。実際滑落事故が多く、死者も出ているらしい。

 なんて聞くと物凄く危険な所の様だが、本当に危険ならそもそも観光客を受け入れる訳が無いので、その辺は話半分に聞く。

 寺に着くと入山前に靴をチェックされる。滑り易い靴だと入山を断られるのである。そして入山記録簿に名前と入山時間、そして家族の連絡先を書かされる。言う迄も無く事故に会った時の為である。ちょっとシリアスな気分になって来た(^_^;)。

 入山して暫くは普通の小路が有るが、急な斜面にぶつかった所で途切れる。一瞬どう行けば良いのか戸惑うが、直ぐに斜面から突き出た何本もの木の根が梯子の様になっているのに気付く。これを登れと言う事か?…って、考えるまでも無く他に道は無い…ってか、道はもう無い。これは道じゃない(^_^;)。

Sanbutsuji_01

 その後も木の根や幹、岩に掴まりながらよじ登って行く難所が次々現れる。足場を探して悩む事もしばしばである。決まった足場は必ずしも無いので、前の人達の足跡も斜面のあちこちに分散してたりする。中には滑った様な跡も…(^_^;)。自分の目を信じて進むしか無い。やがて自分の背丈以上も有る大岩が立ち並ぶ地帯に入る。これまたどう登るか悩むが、目を凝らすと岩の所々に足場に丁度良い微妙な窪みが有る。安全の為に寺の方でさり気なく作ったのだろうか?

 と思って下山後に寺の人に訊ねると、そんな事はしていないと言う。長い年月参拝者に踏まれ続けてそうなったのでしょうとの事。岩が歴史を語っている訳か。

 しかし両手を使って登ると言う行為は案外新鮮だ。普段のハイキングやトレッキングでは間近に見ても触れる事は殆ど無い木や岩の感触を確かめながら登る事で、自然の中に居る事をより強く実感出来る。山岳信仰の精神の基礎を体験している様な気がした。

 とか思ってると何か建物が見えて来る。

Sanbutsuji_02

 投入堂までの中程に有る文殊堂である。これも結構凄い所に建っている。先へ行くには画面左に見える鎖を伝って岩を登るしか無い。登ったら今度は平均台を歩く様に岩の背を伝って行かなくてはならない。それ自体は難しくは無いが、両側が絶壁なので転けたら命に関わりそうだ。

Sanbutsuji_03

Sanbutsuji_04

 文殊堂の中へは入れないが、靴を脱いで濡れ縁に上がる事が出来る。ここがなかなかの展望スポットなのだが、同時によく観光客を立ち入らせるなと思う程危なっかしい所である。写真では分かり難いが、この濡れ縁は人がすれ違うのも難しい程狭く、且つ縁へ向かって微妙に下り傾斜しているのである。最初から傾斜していた訳でも無いだろうから…なんて考えると益々怖い(^_^;)。

Sanbutsuji_05

 せっかくなのでちょっと座って休む事にした。ところが座る瞬間に予期せぬ恐怖心に襲われてビビッた。普段は余り意識しないが、座ると言うのは体の安定を意図的に崩す行為で、しかも体が落下する感覚を伴う。それが崖から落ちる恐怖心を呼び起こすらしい。

Sanbutsuji_06

 更に行くと似たような堂がもう一つ。地蔵堂である。少し標高が高いので景色が微妙に違う。

Sanbutsuji_07

 今度は鐘。大岩が無造作に積み上がった上に建てられており、鐘の所までよじ登るのも一苦労だが、登っても鐘を突く為に立つ足場が全く無いのが凄い。結局鐘楼の梁に腰掛けて突いた(一応記念に(^ ^;))。

Sanbutsuji_08

 大岩地帯が続く。さっきは平均台だったが今度は殆ど綱渡りである。

Sanbutsuji_09

 そこを越えて急斜面を登るとようやく平らな道へ出る。

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 納経堂と

Sanbutsuji_11

 観音堂。ここで行き止まりの様だが…

Sanbutsuji_12

 岩窟にめり込む様に建てられた観音堂の裏手を通って背後の岩壁の向こう側へ回ると…

Sanbutsuji_13

 投入堂だーo(T▽T)o!!

Sanbutsuji_14


 うーむ、確かに凄い所に建っている。しかも基礎が作られておらず、ただ岩に乗っているだけである。念力かどうかはともかく、建てたと言うよりそこにポンと置かれた感じだ。良く何百年も残った物である。柱の下端は斜面の起伏に合わせて一本一本長さが調整されており、投入堂自体は水平を保たれている。山を出来るだけ傷付けず、建物を山の形に合わせたと言う事か。言うのは簡単だが技術的には簡単では無かったと思われる。信仰心のなせる技だろうか?

 しかし投入堂はそんな技術的な無理を全く感じさせない優美な佇まいをしている。そこが単なる建築的美しさを超えた、有る種の神々しさを感じさせるようである。

 ちなみに本当の難所はここから投入堂までである。見ての通り本当に崖を登る事になり、普段は立ち入り禁止になっている。正直ここ迄の道のりはしんどいとは言えちょっとしたフィールドアスレチックス程度の物で、五木寛之や土門拳が泣き言を漏らす程とは思えなかった。多分彼らは投入堂まで行ったのであろう。私の様な一般人はここで引き返す事になる。

 帰りは行きによじ登って来た道をまんま引き返す事になる。これは行き以上にしんどいかと思ったが、実は上から見た方が足場を見付け易く、思いの外楽に帰れたのだった。

 結構体を酷使した様に思ったが、意外に疲れは無かった。距離的には麓から投入堂までは700m位しか無いらしい。ハードな様で実は大概の人が挑戦出来るレベルに収まっている、なかなか絶妙なコースの様だ。

 その絶妙さは恐らく、偶然に出来た物でも、あざとく作られた物でも無く、過去数百年間にこの道を通った数多の人達の足跡が積み重なった結果その物であろう。歴史の重みを実感したのだった。

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コメント

はじめまして。地元のものです。
色々な投入堂参拝記を見るのが好きですが、
上手くまとめてあって、かつ臨場感もよく
伝わってきて、なかなかいいです。今後も
三徳山三佛寺投入堂をよろしくお願いします。

投稿: apindy | 2009.12.01 23:13

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