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2005年10月

シュヴァンクマイエル展

 神奈川県立近代美術館・葉山で開催されている『シュヴァンクマイエル展 -GAUDIA-』を観に行った。

 チェコ アート・アニメ界の重鎮にして最大の異端であるヤン・シュヴァンクマイエルは、社会主義体制下のチェコで抑圧と闘いながら独自の表現を切り開いて来た戦闘的シュルレアリストである。

 人形や粘土、動植物の標本、そして生身の人間がアニメーションの技法によって等しい生命感を与えられ怪しく動き出す彼の映像作品は、無邪気で諧謔的、奇怪で滑稽、破壊的で創造的である。それは時に無垢で混沌とした不安の中に有る子供の頃の世界を思い出させ、時に現代社会への鋭い洞察も感じさせる、極めて深く独特な物である。

 今回の展示は『蒐集物の陳列室』と彼が呼ぶ平面・立体作品群と、初期の実験的アート作品、映画美術等から構成される。この作品群には彼の伴侶であり作品制作のパートナーでもある画家・エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの作品と二人の共同作品も含まれる。

 『蒐集物の陳列室』とは、近代以前の博物館である。科学が今程発達していない時代に作られた博物館は、世界中から集められたいかがわしい蒐集物で溢れていた。日本でも古寺等に人魚のミイラとか鬼の骨とかがまことしやかに伝わっていたりするが、そんな類である。シュヴァンクマイエルは現代人の知識と合理主義の目で見ればいかがわしいそれらの陳列品も、当時の人々にとっては想像力を駆り立てこの世界が不思議と魅力に満ちた物だと感じさせる本当の博物館だったのだと考える。そして逆に合理的知識を学ぶ場となった現代の博物館は自由な想像力を刺激し人間の精神を開放する役割を失ったと考える。

 そこで彼は自らの想像力によって独自の蒐集物の陳列室を作り上げた。奇怪でユーモラスな様々な生き物達が図版として、剥製標本として壁や床に所狭しと並べられた様は圧巻だ。これらの図版や標本は全て現実の百科事典の図版や剥製標本のコラージュで作られている。我々は物を認識する際に過去に見た物との類似によってその物の意味を把握しようとするが、現実に存在する物を不規則に断片化し個々の意味を無視して再構成したこれらの生物は、そうした我々の認識を混乱させ、パターン化した思考に慣れた脳髄に新たな蠢きと快感を与える。シュヴァンクマイエルはこの手法で、前記の『生物学』だけでは無く『建築学』や『地理学』等トータルな『博物学』の体系を作り上げ、我々が認識する合理的世界を様々な角度から解体・再構築し、我々が心の奥底に封印していた不合理な愉悦を呼び覚ます。これらの作品群を彼は『芸術』では無く『魔術』と呼ぶ。

 これらコラージュ作品は彼の映像作品の素材にもなっている。動かぬ剥製だった夢想世界の生物をコマ撮りで撮影して行く行為はさしずめシュヴァンクマイエル魔術の儀式と言えるだろう。そして出来上がったフィルムが上映された時は新たな魔術の発動である。発動した魔術は我々観客の頭の中で作用し完成するのである。

 この美術館は現代美術を扱う館らしく展示室の天井が非常に高い。今回その展示室の壁一面を使ってシュヴァンクマイエルの映像作品も上映されていた。半端な映画館より大きなスクリーンに映し出された動く剥製達は、その横に並んだ動かぬ剥製達もが今にも動き出しそうに感じる魔術を我々に掛けている様だった。

 その次は初期の実験的作品の展示コーナーである。ここには数多くの触覚の記憶をテーマにした『触る』作品が有るのだが、美術館の慣例通り作品に手を触れる事が出来ないのには矛盾を感じた。中には作品が黒い袋で覆われていて、袋に手を入れて触る事で成り立つ作品が幾つも有るのだが、触れないとなると、ただ同じような黒い袋が幾つも並んでいるだけで展示その物が無意味である。一応言葉による説明が横に貼られており、主催者側としては「こう言う作品が有る」と知って貰えば良い位に思っているのかも知れんが、我々は作家に対するうん蓄を求めて美術館に足を運ぶ訳では無いのである。展示をするならその作品をちゃんと本来の形で鑑賞したいのである。この辺何とか良い方法を考えて貰いたい物である。

 次に映画美術である。『アリス』に出て来たウサギや『ファウスト』の人形やセット等、ファン的には感涙物である。

 てな訳で、片道3時間の労力を掛けて行って来た本展だがその甲斐は有った。とは言え不満も有る。今回の展示は全体的にはかなり大規模だったと思うが、個々のジャンルに関して言うと量的に物足りない感じが残った。シュヴァンクマイエルの展覧会など日本では始めてなので取り敢えず全体を俯瞰した物になるのは当然だろう。何回も開かれる様になると特定ジャンルに的を絞ったディープな展示も有り得ると思うので今後に期待したいが・・・・・そんなに開かれないだろうなぁやっぱ(;_ ;)。

 あとカタログに収録されている博物学の図版が小さ過ぎる。壁を埋め尽くす様に並べる展示方法自体に狙いが有るそうなので、カタログでもそれを再現する意味で一頁に沢山の図版を並べているのかも知れないが、如何せん何が描いて有るのか分からない(-_-;)。博物学に付いては以前に作品集が刊行されており、これも同様に個々の図版が小さくて不満だったのだが、今回なお小さくて殆ど図版収録の意味が無い。この辺ももうちょっと考えて欲しい。

 てなとこで。また長くなっちまいましたな(笑)。

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